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西荻散歩〜こけし屋の秘密

西荻窪には
どうしても行かなくてはならない場所がある。
行って自分の姿を
取りもどしてこなくてはならないときがある。
老舗のフランス料理店 こけし屋の二階

かつて
こけし屋は木造の二階建て
二階に上がる階段は
途中まであがるとぎしぎしときしみ
二階のテーブル脇にならんでいるこけしが
倒れそうに揺れる
白いテーブルクロスは白すぎずやさしい

日曜日のこけし屋でランチのぜいたくをしようと
午後1時を充分過ぎた頃に
学生がひとり本を持って入る。

注文はランチ用に作ってあるメニューで
800円ぐらいの軽い一皿
たとえば、卵とほうれんそうのグラチネ
そうでなければ、定番メニューの安いもの。
たとえば、サフランライスと海老のソースアメリケーヌ
ごくたまに
昼間から、こけし屋名物、ポトフで
寒くなると
世界で一番おいしいこけし屋のオニオングラチネ

それが、学生としてはぎりぎりのところで
デザートはもちろんなし
一皿をていねいに頂いて帰る
注文してから料理がくるまでの間は
手持ちぶさたで本を読んで過ごす

ある日、帰ろうかなと思っていると
黒服のウェイターが早足で近づいてきた
「今、キャンセルがあったのですが
 ピーチメルバはいかがですか?」
サービスだというのでビックリしながら
一階の喫茶室でどこかのカップルがキャンセルした
ピーチメルバの片方をいただいてしまった
それからは
「宿題を持ってきてここでやればいいのに」
と長居をすすめてくれたり
「こんなの作ってくれたんだけど」
と突然、丸いスポンジケーキの切り落としと
黄桃の端とカスタードソースを使った
目玉焼き型のデザートを厨房から持ってきてくれたりと
西荻窪から引っ越すまでの数年間
ぜいたく中のぜいたくが続いたのである

先日こけし屋に寄ったら
ピーチメルバのウェイターはまだ仕事をしておられた
だいぶ偉くなったようだったが
まだ当時と変わらない様子で指示を出しておられた
思い違いかもしれないから
三十年も前のピーチメルバは
私だけの秘密にしておこう

ランチタイムを過ぎた
お客のだれもいない
日曜日の午後のこけし屋の二階
はじめは、東京に来たばかりの自分が
背伸びをしながらなんとか自分を保ちつつ
1人でランチを食べていた場所だったのだが
いつのまにやら
自分の身に何が起こっても
その場所に入ってしまえば
ありとあらゆる邪悪なものから
自分自身を守ってくれる
魔法陣のような場所になってしまった

しかし、西荻を離れるかという時期に
こけし屋は4階建てのビルに改築
となりはなんとLホテルに!
さてさて、魔法陣の力はいづこへ
『K屋のKはKABUKIのK?』
COMMING SOON!
(...really?)
by mironobonus | 2005-07-28 23:46 | 食材とお料理
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